「アメリカの家賃は3年以上下がり続けている」というニュースやSNSの動画が話題になっています。では、次の更新で自分の家賃も下がるのでしょうか。
結論から言うと、下がっているのは主にこれから部屋を探す人向けの募集家賃で、今住んでいる人の更新の家賃が自動で下がるわけではありません。ただ、この差は更新の交渉で使える材料になります。この記事では、2026年10月12日時点で確認できたデータをもとに、更新の前に見ておきたい数字をまとめます。
- 「37か月連続下落」は新規募集の家賃の話。今住んでいる人の家賃を追うCPIは前年より上がっている
- 新しく入る人向けのコンセッション(無料期間など)は、大きいところで約1.5か月分。更新の交渉の材料になる
- 近所の募集家賃は、無料期間を差し引いた「実質家賃」に直して、自分の更新の提示額と比べる
- CA・NY・WA・ORなどは、州法で値上げの上限や通知の期間が決まっている
1. 家賃の指数は何を測っているか
家賃の指数は、何を測っているかで見え方が大きく変わります。
| 指数 | 測っているもの | 最新の数字 |
|---|---|---|
| Realtor.com | 上位50都市圏の新規募集の家賃 | 2026年8月:中央値$1,699、前年比-0.9%。前年を下回るのは37か月連続 |
| Apartment List | 全国の新規募集の家賃 | 2026年9月:中央値$1,388、前年比-0.4% |
| Zillow(ZORI) | 掲載データから推計した、住宅全体の典型的な家賃 | 2026年9月:$1,932、前年比+2.7% |
| BLS(CPI) | 今住んでいる人が実際に払っている家賃 | 2026年8月:家賃は前月比+0.2%、住居費全体は前年比+3.0% |
つまり、これから部屋を探す人向けの募集家賃は下がっている一方、今住んでいる人の支払いを追うCPIは上がっています。多くの契約は年1回の更新なので、市場の動きが今の家賃に反映されるまでには時間がかかります。
Realtor.comの間取り別では、studioが$1,436(-1.2%)、1ベッドルームが$1,586(-0.8%)、2ベッドルームが$1,896(-0.9%)でした。Apartment Listでは、前年比の下げ幅は4月の-1.6%を底に5か月続けて小さくなっています。ただし9月は前月比-0.1%と、1月以来はじめて前月より下がりました。空室率は7.0%、契約が決まるまでの日数は平均34日です。
2. なぜ下がっているのか。地域による差
主な理由は、物件の供給が多いことです。数年前に着工した集合住宅が2025〜2026年に次々と完成し、借りたい人より物件が多い地域が増えています。供給の多い地域では家賃が下がり、優遇も大きくなっています。
地域差も大きく、Apartment Listの2026年9月のデータでは、たとえば次のとおりです。
- サンアントニオ:中央値$1,121、前年比-4.3%
- デンバー:中央値$1,613、前年比-3.1%
- オースティン:中央値$1,326、前年比-2.3%
自分の住むエリアの相場は、Zillow・Apartments.com・Rentometerなどで、同じような間取りの募集家賃を調べて確認しましょう(調べ方は「家賃交渉・賃貸契約の見直し」で紹介しています)。
3. 新規募集と更新は別。その差が交渉の材料になる
ニュースの「家賃下落」は新規募集の家賃の話で、今住んでいる人の更新の家賃が自動で下がるわけではありません。
一方で、新しい入居者を集めるために優遇を出す物件は増えています。大家さんにとっては、空室を出して新しい人を探すより、今の入居者に残ってもらうほうが得になりやすい状況です。
だからこそ、更新の提示額が届いたら、近所で募集中の同じような物件がいくらで、どんな優遇が付いているかを調べて、交渉の材料にする価値があります。
4. コンセッションの相場
コンセッション(無料期間などの優遇)は、「優遇を出している物件の割合」と「割引の大きさ」を分けて見ます。
- 優遇を出している物件の割合:Realtor.comでは2026年8月に43.5%(前年は40.4%)、Zillowでは9月に39.6%(前年は37.4%)でした。
- 割引の大きさ:RealPageの集計では、優遇を受けた12か月契約の平均で約5.7週間分(約11%)の家賃が無料でした(2026年8月)。2010年3月と同じくらいの水準です。ただし、RealPageの集計で実際に優遇を受けた物件は15.4%に限られます。
更新の交渉では、「新しく入る人にはこれだけの優遇があるので、今の入居者にも配慮してほしい」と伝える材料になります。
5. 計算例:更新の提示額と近所の実質家賃
自分の更新の提示額と、近所の募集家賃の「実質家賃」を比べます。
- 自分の更新の提示額:今の家賃$2,000に対して、+4%の$2,080
- 近所の同じような物件:募集家賃$2,050で、12か月契約なら6週間分が無料
- 実質の割引率:6週間 ÷ 52週間 ≈ 11.5%
- 実質家賃:$2,050 ×(1 − 0.115)≈ 月$1,814
この例では、更新の提示額と近所の実質家賃の差は月約$266です。「同じような物件が実質これだけ安く借りられる」という具体的な材料になります。
ただし、実際に引っ越す場合は、デポジット、申込料、引っ越し費用などの初期費用がかかります。交渉の材料に使う場合と、本当に引っ越す場合とでは、損得の計算が変わります。
6. 州ごとの値上げの上限と通知のルール
住んでいる州によっては、法律で値上げの上限や通知の期間が決まっています。主な4州のルールは次のとおりです。市や郡が独自のルールを持っていることもあるので、必ず公式の情報で確認してください。
- カリフォルニア州:値上げの上限は、12か月で「5%+地域のCPI」と「10%」のうち低いほうです(Civil Code §1947.12)。通知は、12か月で10%以下の値上げなら30日前、10%を超えるなら90日前です(§827)。築15年未満の建物などは、上限の対象外になる場合があります。上限の数字は地域ごとに違うので、州司法長官室のページで確認できます。
- ニューヨーク州:5%以上の値上げや、更新をしない場合は、住んでいる期間に応じて書面で事前に通知する必要があります(RPL §226-c)。1年未満は30日前、1〜2年は60日前、2年以上は90日前です。通知がなければ、通知を受けてからその期間が過ぎるまで今の条件が続きます。家賃規制(rent-stabilized)の物件は別のルールです。
- ワシントン州:値上げの上限は「7%+CPI」と「10%」のうち低いほうで、2026年は9.683%、2027年は10%です(州商務省の発表)。入居から12か月以内の値上げは禁止で、値上げには90日前の書面の通知が必要です。
- オレゴン州:値上げの上限は「7%+CPI」で最大10%、2026年は9.5%、2027年は10%です(州の経済分析局の発表)。入居から1年間は値上げできず、その後も値上げは12か月に1回まで、90日前の通知が必要です。築15年未満の建物は対象外です。
※ この記事は法律の助言ではありません。自分の契約に当てはまるかは、州や市の公式窓口、または法律の専門家に確認してください。
7. 更新・引っ越し・長期契約、どう決めるか
交渉しても値下げが難しい場合は、次のような考え方があります(地域や契約の条件によっては当てはまりません)。
- 供給が多く、家賃の下落が続いている地域:12か月程度の契約で更新し、来年また相場を見て交渉する余地を残す。
- 家賃が持ち直している地域や、値上げの上限がない州:長めの契約で今の家賃を固定し、将来の値上げを避ける。
- 引っ越しを考える場合:初期費用も含めて比べる。費用の抑え方は「引っ越し費用を抑える方法」を参照してください。
まとめ(チェックリスト)
- 「37か月連続下落」は新規募集の家賃の話で、自分の更新の家賃が自動で下がるわけではないと理解する
- 近所の募集家賃と、コンセッション(割合と大きさ)を調べる
- 無料期間込みの実質家賃を計算して、更新の提示額と比べる
- 住んでいる州や市の値上げの上限と通知のルールを、公式サイトで確認する
- 更新・引っ越し・長期契約のどれが得かを、初期費用も含めて比べる
※ 本記事は2026年10月12日時点で確認できたデータにもとづく整理です。家賃の指数は毎月更新されるため、最新の数字は各社のレポートで確認してください。
出典
- Realtor.com Monthly Rent Report(2026年8月分):$1,699、37か月連続、間取り別、優遇43.5%
- Apartment List:全国の家賃データ(2026年9月):$1,388、空室率7.0%、34日
- Apartment List:サンアントニオ/デンバー/オースティン
- Zillow Research:2026年9月のマーケットレポート:$1,932、優遇39.6%
- BLS:消費者物価指数(2026年8月):住居費+3.0%、家賃+0.2%
- RealPage:コンセッション(2026年8月):約5.7週間・約11%、15.4%
- カリフォルニア州司法長官室:家賃の上限/Civil Code §827
- ニューヨーク州:RPL §226-c
- ワシントン州商務省:2026年の上限9.683%/HB 1217
- オレゴン州経済分析局:家賃の上限/ORS 90.323